腎性貧血の治療薬:HIF-PH阻害薬

腎臓内科

日本腎臓学会より「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」が発表されました。

これを機に新しい腎性貧血の薬「HIF-PH阻害薬」についてまとめました。

少し専門的な内容ですので、簡単な説明については患者さん向けに別途ページを作成しております。ご参照ください。

HIF-PH阻害薬とは

今まで使用されていたESA製剤は腎機能障害で不足する「エリスロポエチン」そのものを補う形で治療をしています。

今回発売されたHIF-PH阻害薬は、HIF(低酸素誘導因子)とよばれるものを活性化させて、腎臓からの「エリスロポエチン」の産生を亢進することで治療をします。

通常、HIFは「HIF-PH」によって分解されますが、今回の薬はこのHIF-PHを阻害することで分解せずに安定化します。

実はマラソン選手が高地トレーニングをするのもこのメカニズムが関わっており、高地の低酸素状態では「HIF-PH」が阻害されるためHIFが分解されず安定化します。

HIF-PH阻害薬の効果

HIF-PH阻害薬の使い時は、ESA製剤を使用しても貧血が改善しない「ESA製剤抵抗性」の症例です。

ESA製剤抵抗性の症例では、死亡率・心血管イベントの予後が不良であることが分かっています。

これらの症例の背景には、慢性炎症が存在する可能性があります。

慢性炎症があると、鉄の利用効率が悪くなるなど様々なメカニズムで貧血が起きます。

今回のHIF-PH阻害薬は、ヘプシジンやDMT1などに作用して、貯蔵鉄の利用や腸からの鉄の吸収を亢進させます。

そのため、HIF-PH阻害薬では鉄の動きをしっかり評価することが大切です。(後で触れます。)

2016年のAJKDの報告では、CRPと「ESA or HIF-PH阻害薬」の関係をみており、ESA製剤の場合、CRPが高いと多くのESAを必要量が上がり、HIF-PH阻害薬では必要量が変わらないという結果が出ています。

HIF-PH阻害薬を使うことを推奨する場合

医学的にHIF-PH阻害薬が推奨されるのは、ESA製剤の効きがよくない「ESA製剤抵抗性症例」時です。

ただし現場の本音としては、点滴であるESA製剤の代わりとして内服であるHIF-PH阻害薬を使用したい気持ちもあります。

現段階ではまずは使用実績が蓄積されているESA製剤が推奨されますが、今後HIF-PH阻害薬に変わっていくかもしれません。

ただし、以下の状態がある患者さんでのHIF-PH阻害薬の使用には注意を要します。

  • 悪性腫瘍
  • 網膜病変
  • 虚血性心疾患の既往
  • 脳血管障害の既往
  • 末梢血管病(閉塞性動脈硬化症、深部静脈血栓症など)の既往 など

詳しいメカニズムは後で触れます。

HIF-PH阻害薬を使用する場合のポイント① ~鉄動態~

HIF-PH阻害薬は、貯蔵鉄の利用亢進、腸から鉄吸収の更新など体内の鉄動態に大きな影響を与えます。

「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」からのポイントを抜粋すると以下の4点です。

① 鉄が十分に補充されていることを確認する。以下の場合には鉄の補充を行う。

  • 貯蔵鉄:フェリチン<100ng/ml
  • 循環している鉄:TSAT<20%

② HIF-PH阻害薬を開始すると鉄の利用が急激に亢進することがあるので1カ月後に鉄の評価を行うこと。

③ 鉄の補充は、HIF-PH阻害薬は腸からの鉄の吸収が改善するので経口からの補充を推奨する。経口薬としては、クエン酸第二鉄やスクロオキシ水酸化鉄などリン吸着薬も考慮する。

④ ただし、プロトンポンプ阻害薬投与中、重症心不全の場合は静脈投与を検討する。

HIF-PH阻害薬を使用する場合のポイント② ~悪性腫瘍~

HIF-PH阻害薬は、悪性腫瘍に対する影響が否定しきれていません。

「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」を参考にすると以下の3点です。

① HIF-PH阻害薬のメカニズムから悪性腫瘍(特に淡明細胞型腎癌や固形癌など)に対する影響が予想される。

② そのため、投与前の悪性腫瘍のチェック、および投与後の少なくとも年に1回程度のMRI、造影CT、エコーなどで適切な画像検査を用いて評価、経過観察を行うことが推奨される。

③ ただし、現段階での臨床研究では、悪性腫瘍の発生頻度が増えるというエビデンスはない。(最長の大規模臨床研究は1-2年の段階)

HIF-PH阻害薬を使用する場合のポイント③ ~網膜症~

HIF-PH阻害薬は、網膜症に対する影響が予想されて注意が必要です。

「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」を参考にすると以下の2点です。

① HIF-PH阻害薬のメカニズムから網膜出血のリスクが高い患者(増殖糖尿病網膜症、黄斑浮腫、滲出性加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症など)での投与には注意が必要であり、投与前・投与後には眼科での網膜のチェックが必要。

② 現段階での臨床研究では、網膜症の増悪の発生頻度が増えるというエビデンスはない。とはいえ、今までの大規模臨床研究では網膜症のリスクが高い患者さんは除外されているので解釈には注意が必要。

HIF-PH阻害薬を使用する場合のポイント④ ~その他~

① 肝機能障害

過去の臨床研究で肝機能障害の指摘がある。また中等度以上の肝機能障害(child-pugh分類B)では血中濃度上昇が示されており、減量が検討される。

② 高カリウム血症

過去の臨床研究で指摘がある。ただし、ESAとの比較で発現率に大きな変化がないという報告もある。

③ 血栓塞栓症

脳梗塞、心筋梗塞などの既往がある場合は、慎重に使用して血栓塞栓症と思われる症状があれば中心も検討する。

また貧血が急激に改善すると惹起されるため、週にヘモグロビン値が0.5g/dl以上越えないスピードで補正する。

④ 血管石灰化

基礎研究で血管の石灰化が進行する危険性が指摘されている。頸動脈エコー、血圧・脈波、CT検査などで定期的に評価する。

⑤ 肺高血圧/心不全

動物実験、HIF関連遺伝子の変異を有する症例でHIFシグナルの恒常的な活性化が肺高血圧を増悪させる可能性が指摘されている。

HIF-PH阻害薬による直接的な関連性はまだ不明だが、胸部レントゲン・心エコーなどを定期的にとることを推奨する。

⑥ 糖・脂質代謝への影響

まだ明らかなではないが、動物実験ではHIF-PH阻害薬による肥満、インスリン抵抗性を軽減する可能性が指摘されている。

薬剤によってはコレステロール濃度の低下が報告されているものがある。その先にある心血管疾患の影響はまだ不明。

HIF-PH阻害薬を使用する場合のポイント 番外編 腎機能について

今回の「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」の内容とは少しずれますが、HIF-PH阻害薬による腎機能への影響も注目が集まっています。

現状では動物実験の結果のみであり臨床に当てはめることができるエビデンスはありませんが、今後注目される点です。

良い報告としては日本腎臓学誌に掲載された報告として、HIF-PH阻害薬による尿細管間質の線維化の抑制・アルブミン尿の減量など腎保護効果を期待する報告があります。(The Japanese Journal of Nephrology 2019;61:295)

一方で、持続的なHIFの活性化で線維化の増悪を示唆する報告もあります。(Nephrol Dial Transplant 2012;27:3110-3119)

特記すべき報告としては、多発性嚢胞腎で嚢胞が増悪する可能性があるという報告があります。(Kidney Int. 2018;94:887-899)

この点については、「HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation(2020 年 9 月 29 日版)」でも触れられているのでご参照ください。

多発性嚢胞腎を含む治験では嚢胞の増大は認めていないようですが、観察期間が短いので少し様子をみていた方が良いと思います。

HIF-PH阻害薬を使う時(私見)

ここからは若手医師の勝手な私見です。(腎臓内科の先輩方の意見を是非伺いたいです。)

クリニックで診療をしている身としては、注射薬ではなく内服で腎性貧血できることはかなり魅力です。

個人的には、動脈硬化・加齢による腎硬化症症例の症例で使用を検討したいと思います。

一方で糖尿病性腎症については、ESA抵抗性の腎性貧血の時に検討する程度でとどめたいと思います。保存期CKDではあんまりESA抵抗性の症例で困ることも少ないのでESAで継続したいと思います。

後は、使用実績が溜まるまでは2-3年様子をみたいと思っています。

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